【花王】アミラーゼを指標とすることで、唾液飛沫の付着場所を判断

花王株式会社 ハウスホールド研究所・生物科学研究所は、唾液に含まれるアミラーゼを指標とすることで、簡便に唾液飛沫の付着場所を特定する方法を確立しました。

この技術を応用することよって、効率的な衛生管理が可能になることが期待できます※1

※1 この研究成果は、国際学術誌『Journal of Infectious Diseases & Therapy 』に掲載。
 Salivary Amylase: A Monitoring Index for Respiratory Infectious Virus Contamination. J. Infect. Dis. Ther. 11:4 (2023)

感染症は唾液飛沫を非感染者が触ることで感染

新型コロナやインフルエンザなどの感染症では、感染者のウイルスを含む唾液飛沫が物に付着し、それを非感染者が触ることで体内にウイルスを取り込んで感染する経路があると考えられています。

そのため感染防止には、周辺環境を衛生的に保ち、経路を遮断することが重要です。

アミラーゼを指標とすることで唾液飛沫を簡単に検出

ウイルスの多くが感染者の唾液とともに飛散することから、唾液飛沫が付着した場所を特定することで、清拭すべき場所を明らかにする方法を検討しました。

そこで、唾液に含まれるさまざまな成分の中で、高濃度で存在し、安定的に採取可能であるアミラーゼに着目(図1)。

また日常の衛生管理で使用するには、付着有無と量について簡便に把握できる必要があり、今回花王はイムノクロマト法※2 を用いてアミラーゼ量を視覚的に判別できることを確認しました(図2)。

※2 毛細管現象や抗原抗体反応を利用した検査手法で、法医学的分析などに使用されている。

次に、唾液飛散が起こる行動(咳、くしゃみ、食事)で実際に唾液飛沫付着場所からアミラーゼが検出されるのか調査。

調査では、対象者の周囲にプレートを設置し、各行動後※ にプレート表面を綿棒で拭き取り、イムノクロマト法でアミラーゼ検査を行いました。

その結果、唾液飛沫が付着していると考えられる対象者周辺のプレートからはアミラーゼが検出され、距離が遠いプレートでは検出されませんでした(図3)。

この結果より、唾液飛沫の付着場所を指標にアミラーゼを使用できる妥当性が示されました。

マスクを外して、咳は5回実施(aは口元付近に設置)。くしゃみは立位で5回実施(bは足元、cは50㎝先、dは100㎝先、eは200㎝先に設置)。食事は、4人がけテーブルに3人で着席し、30分間会話を実施(fは横並びの2人の間、gはテーブル中央に設置)。

アミラーゼによりウイルスの存在を判定する妥当性の検討

唾液中のアミラーゼとウイルスの残存時間を比較するため、アミラーゼとウイルスをモデル板上に付着させ、それぞれがどの程度残存しているのかを2週間継続して測定※3 

その結果、アミラーゼもウイルス遺伝子も経時的に減少することが確認できました(図4、5)。

今回の調査でアミラーゼとウイルス遺伝子の残存期間が類似傾向を示したことにより、アミラーゼを検出することが、ウイルスの量を把握する上で有用であると考えられます。

そのため、アミラーゼが多く残っているところは清拭が必要な場所だと判定できました。

※3 ウイルスはコロナウイルス科のHuman coronavirus OC43を使用。対象者2名の唾液とそれぞれ混合してプラスチック基板上に1µL滴下して乾燥させ、滴下部からRNA遺伝子数(N=3、means±S.D)をPCR法で測定。
アミラーゼは、対象者3名の唾液をイオン交換水で50倍に希釈し、プラスチック基板上に1µL滴下して乾燥させ、滴下部を綿棒で拭き取ってイムノクロマト法で測定。

重点的に清拭すべき場所の特定が可能に

唾液に含まれるアミラーゼを測定し、環境中の唾液飛沫が付着した場所を特定できることを見いだしました。

感染者の唾液飛沫にはウイルスが含まれるため、付着場所は消毒剤などを使用して清拭し、衛生的に保つことが重要です。

花王は今回の研究で見いだした知見を用い、効率的な衛生管理に貢献できるような取り組みを進めるとしています。