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【コラム】理容業界の危機は理美容両業界の赤信号:職業の価値と誇りを見つめ直すべきとき

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先細り一方で状況改善の兆しが見られない理容業界。そして、美容業界もそれに無縁ではありません。利益優先に走るあまり、職業の誇りと本来の価値を見失う崖っぷちにあります。

現代、それは理美容という業の理念が問われる時代にほかならないのではないでしょうか。

先細る理容業界・売上高471万円:数字が改めて示す存亡の危機

理容・美容業界のニュースをデータに基づき発信している業界メディア「理美容ニュース」(武田裕代表)は、種々の数字をあげて理容業界の存亡の危機を訴えています。

理容組合員の2021年の実態をみると、平均年齢66.8歳で94.5%を個人経営が占めるそう。2020年の組合店の年間売上高は個人経営で471.3万円、法人経営で1,501.6万円。個人経営の売上高が初めて500万円の大台を割り込んだ、と「理美容ニュース」は伝えています。

主力メニューである総合調髪の料金は、2009年度以降、上昇御傾向にあり、2020年度は3,818円にまで値上がりしました。そして、客数は減少したとのこと。理美容業界は新規参入者が少なく、店主の高齢化が進み、売上減少が続いています。今後も高齢化による廃業、売上減による転廃業の増加が予想され「理容業界の存続が危うい」と警鐘を鳴らしています。

高齢化だけではない、危機の原因

年齢を重ねていつか引退の日を迎えるのは、人の世の常。長いこと言われてきたことですが、理容業界の最大の問題は、志を抱いて入ってくる若者の数が極端に少ないことにあります。いわゆる「3K」の仕事が若者に敬遠されるといいますが、はたして原因はそれだけでしょうか。

厳しくきつい職業は、理美容師には限りません。タレント業しかり、介護士、看護師、医師・・・。挙げればきりがありません。しかし、(全体的に見れば)理美容業界がこれまで、職場風土の改善に積極的に取り組んできた、とはいいがたい。これは、理美容師を主要構成員とする各種技術団体についてもいえることです。

誤解を恐れずに言えば、対策の柱は給与・報酬面にあるのではないでしょうか。筆者がかつて伺った、60代半ば過ぎの美容家の先生の述懐が思い出されます。彼はかつて、「美容師は、努力すればそれに見合う報酬が得られるし、自己実現ができる職業でもある」と語っていました。

この美容家は、縛られること多い会社勤めの同世代の姿を後目(しりめ)に、束縛のない職業生活を楽しみ精励してきました。“当時の若者”ならば誰しもが一度はあこがれであろう“ガイシャ”を購入し、業界の先輩と一緒にゴルフ場を訪れるというステータスも手に入れていました。

しかし、“今の”理美容師には、これは手の届かぬ夢でしかありません。月給も賞与も定額に抑えられ「(業務委託等ではなく)独立して自分の店を構える」という理想の実現も、容易ではなくなってきています。

厚生労働省による2021年度賃金構造基本統計調査によれば、従業員数10名以上の企業サロンに勤務する理美容師の月給は、26万5,000円だったとのこと。賞与を含む年収でも324万1,000円で、前年比マイナス1%の5万7,000円減でした。このような状態では、独立して店を構えようかという野心的理美容師が、金融機関に融資を求めるに際して示すべき将来性の担保は不可能。まさに構造的な問題といえます。

美容室チェーンによる株式市場上場を機に替わった、理美容業界の風土と構造

1999年、日本の理美容業界で初めて株式市場への上場を実現した株式会社田谷。創業者の田谷哲哉氏は、美容室の三代目として千葉県成田市に生まれました。実家勤務を経て、1964年に「TAYA」美容室一号店を東京都千代田区麹町に出店。美容師としての天賦の才とダンディな容姿に恵まれた氏は、各種のヘアデザイナー団体の設立にたずさわり、四半世紀・25年間のうちにTAYAを上場企業にまで押し上げました。

その後、「TAYA」に続け、とばかり、上場をめざす美容室チェーンが数社現れました。上場企業として守るべきコンプライアンスが求められることは当然ですが、その一面、伝統に培われたプロフェッショナリズム(職人気質)を重視する師弟関係の価値観は軽視され、片隅に追いやられることになりました。

美容室経営が企業利益を優先し、さらに、従業員への利益還元についても能力優先ではなく、日本特有の平等分配という方向に走った、というのは筆者の思い過ごしでしょうか。技術的に優れたヘアデザイナーが、その技術に見合った収入を得られるというシステムの構築よりも、平等主義のほうが優先されてしまったことの弊害は大きいと、筆者は考えます。

美容室経営の基本となるのは技術であり、ヘアデザイナーとしての誇りであること。業界のリーダーたちが十分認識するならば、夜間あるいは休日の技術習得も個々人の判断に準拠して認められるべし、と堂々と主張したら良いのではないでしょうか。

そして「TAYA」上場から25年。美容室組合の全国組織・全美連(全日本美容業生活衛生同業組合)も美容ディーラーの組織・全美商連(全国美容用品商業協同組合連合会)も、この問題に真剣に取り組むべきときが来ているのでしょう。

そもそも、そのような取り組みがなされていれば、冒頭に述べたような理容業界存亡の危機は生じなかったはず。美容業界もまた、前車の轍(わだち)を踏む寸前にあります。関係者はこのことを、よくよく肝に銘ずべきではないでしょうか。

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